第7回 浜松医科大学 同窓会学術奨励賞受賞論文要旨


インスリン顆粒の開口放出反応における顆粒膜と顆粒内物質のエバネッセンス顕微鏡による画像解析

Simultaneous Evanescent Wave Imaging of Insulin Vesicle Membrane and Cargo During a Single Exocytotic Event.     
Current Biology 10, 1307-1310, 2000.

坪井貴司氏 (医学科大学院第18期生) 本学光量子センター(現在渡米中)

Nm23-H1 は齧歯類のメラノーマにおいて単離された腫瘍転移抑制遺伝子であるが,腫瘍形成に促進的に働くという矛盾した報告も最近みられる。また,それらのメカニズムについてはほとんど解明されていない。近年,nm23-H1 は RasファミリーのGTPase の Rad に対してGTPase-activating protein(GAP)としての作用があると報告された。

開口放出反応の際には,細胞質に存在する分泌顆粒が細胞膜と融合し,その内容物を細胞外に放出する。開口放出反応後の分泌顆粒動態については,2つの仮説がある。1つの仮説は,分泌顆粒膜が細胞膜と完全に融合し,その後その融合した膜が回収されるものであり(オメガ型機構),残りは,分泌顆粒膜が細胞膜と極短時間だけ融合し,その後素早く細胞膜から離れるというものである(”kiss and run ”機構 )。しかしながら,現在まで単一分泌顆粒膜の開口放出前後での動態を直接的に実時間で可視化解析を行った研究はなかった。

そこで本研究では,細胞膜近傍だけを観察できる全反射照明型蛍光顕微鏡(エバネッセント光)を用い,さらにこの顕微鏡光学系上に2枚のダイクロックミラーを取り付け,2色の蛍光像を同時に観察できる装置の構築に成功した。そこでこの顕微鏡を用い,インスリン分泌細胞INS−1細胞の分泌顆粒内をアクリジンオレンジで,分泌顆粒膜をEGFPで蛍光標識し,インスリン放出動態と分泌顆粒膜動態を実時間で可視化解析した。

ガラス微小電極による刺激の結果,アクリジンオレンジで染色した分泌顆粒は,33〜100ミリ秒間蛍光強度が増加し,その後突然消失する反応を示した。一方,分泌顆粒膜をEGFPで蛍光標識した顆粒は,刺激後その蛍光強度を単に減少させ,その後細胞膜近傍を細胞膜と平行に動く反応を示した。そこで,アクリジンオレンジで染色した分泌顆粒と分泌顆粒膜をEGFPで蛍光標識した顆粒を同時観察した結果,EGFPの蛍光強度減少と同時にアクリジンオレンジの放出反応が観察され,その後EGFPで蛍光標識した顆粒が動くことが分かった。

以上の結果から,開口放出時に細胞膜と分泌顆粒膜の融合孔が拡がりながら内容物を放出するのではなく,融合孔が維持された状態で,かつ顆粒が動きながら開口放出反応が起こるという新たな機構(" kiss and glide " 機構 )を発見した。この機構は,インスリン分泌の高速でかつ効率的な放出を担っていると示唆される。