第5回 浜松医科大学 同窓会学術奨励賞受賞論文



直腸肛門部切除術後の新肛門作成術(陰部神経縫合法を
用いた機能的な会陰部人工肛門)の実験的研究

佐藤 知行 (医学科第6期生)


背 景

直腸癌の根治術である腹会陰式直腸切断術(マイルス手術)は、癌腫とともに肛門をも切除し、患者の腹壁に人工肛門を強いる術式である。これを改善させる試みはほとんどなかった。そこで、肛門切除後に、新肛門を作成する新術式の開発の研究に着手した。本術式のコンセプトは、排便に重要な役割をもつ肛門括約筋の機能 1)排便に合目的的に反射的に働く, 2)安静時にも収縮, 3)便意のリセプターの場, をつかさどる陰部神経を下肢の骨格筋に神経吻合する事によって、それらの機能をその骨格筋に移植し、その骨格筋を使って肛門括約筋を再建する事で、新肛門に自然な肛門の機能を獲得させようというものである。

方 法

成犬を用いた。直腸肛門を括約筋とともに切除した後、実験群(n=22)では、陰部神経を縫合した大腿二頭筋を使って、括約筋を再建して旧肛門部に新肛門を作成し、一方、対照群(n=11)では、本来の神経支配のままの大腿二頭筋を使って括約筋を再建し新肛門を作成した。術後、3から5ケ月で評価した。

結 果

陰部神経の電気刺激で全例に活動電位と筋収縮が確認され、また、安静時に律動筋電図波形が得られたが、対照群では得られなかった。肛門管長、肛門直腸角、および肛門管内圧では、実験群と対照群の間に有意差はなかった。しかし、実験群で、肛門刺激に反応し6例全例で筋電図波形の増幅が観察され、反射的肛門内圧の上昇が13例中9例に観察された。一方、対照群では観察されなかった。筋組織の1型繊維と2型繊維の比率では、陰部神経を吻合した再建括約筋で、本来の肛門括約筋に似た比率に有意に変化し、肛門括約筋の特異性を組織化学的に獲得している事が確認された。排便状況は、術後2ケ月め以降、実験群で有意に改善した。

結 語

陰部神経を縫合した再建括約筋は、筋電図的、生理学的、組織化学的に、肛門括約筋の性格を獲得し、その新肛門は、良好な排便機能を示した。