第6回 浜松医科大学 同窓会学術奨励賞受賞論文


ラット心室筋細胞においてKB-R7943によるNa+/Ca2+Exchange を介するCa2+流入の阻害
は正常の収縮とジキタリス剤の強心作用には影響せずCa2+過負荷を防止する


佐藤 洋


緒言 虚血心筋における再灌流障害の原因として心筋細胞のCa2+過負荷が報告されているが、そのCa2+流入経路として細胞膜のNa/Ca2+交換が重要である。Na/Ca2+の交換は、膜電位と細胞内外のNa濃度勾配の変化により、Ca2+排出、Ca2+流入の両方向性に働くが、再灌流時のCa2+過負荷がNa/Ca2+交換のCa2+流入モードの促進によるのか、或いはCa2+排出モードの低下によるのか、現時点では不明である。今回我々は、最近開発されたNa/Ca2+交換のCa2+流入モードの選択的阻害薬であるKB-R7943(KBR)を用い、心筋の収縮とCa2+代謝におけるNa/Ca2+交換のCa2+流入モードの関与を生理的な収縮時と、再灌流心筋の病態の一つである細胞内Na濃度の上昇時において検討した。

方法 単離したラット心室筋細胞にCa2+感受性蛍光色素のindo 1 を負荷し、一過性の細胞内Ca2+濃度の上昇(Ca2+transient)と細胞収縮を同時測定した。筋小胞体のCa2+含量はcaffeine投与時のCa2+transientの振幅により評価した。細胞内Na負荷はジギタリス剤であるstrophanthidinの灌流にて行った。細胞膜の活動電位はpatch clamp法にて行った。

結果 (1)KBR(5μM)の灌流による電気刺激時の細胞収縮、Ca2+transientの振幅には有意な変化を認めなかった。また、筋小胞体のCa2+含量も変化しなかった。(2)KBRは静止後の細胞収縮の増強反応の時間経過に影響しなかった。(3)KBRは活動電位の再分極相後期を軽度延長させたが、脱分極相、再分極相早期には影響せず興奮収縮連関への直接作用は否定的であった。(4)KBRはジギタリス剤灌流による細胞収縮、Ca2+transientの上昇を抑制しなかったが、自動収縮能をきたした細胞では拡張期Ca2+濃度を低下、自動能を消失させた。

総括 Na/Ca2+交換を介するCa2+流入は正常心筋の収縮とCa2+transientへの関与は少ないが、Na負荷時のCa2+過負荷には重要であり、ジギタリス中毒や虚血/再灌流時などの不整脈と細胞障害の原因となることが示唆された。また、KBRが今後、ジギタリス中毒と虚血/再灌流の治療薬として応用される可能性が示された。