第7回 浜松医科大学 同窓会学術奨励賞受賞論文要旨


腫瘍転移抑制遺伝子KiSSー1はオーファンG蛋白質共役型受容体GPR54の内因性リガンドであるkisspeptinをコードする。

The metastasis suppressor gene Kiss-1 encodes kisspetins, the natural ligands of the orphan G protein-coupled recepter GPR54.
    J.Biol.Chem, 276,34631-34646,2001.

小谷仁人氏  (医学科第10期生)  浜岡総合病院内科学   医長  


G蛋白質共役型受容体(GPCR)は7回膜貫通構造をもつ蛋白であり,細胞膜における受容体の中でもっとも多くの存在が知られている。近年,分子生物学的手法の進歩により,数百に及ぶGPCRsがクローニングされたが,そのほとんどは内因性リガンドが同定されておらず,オーファン(orphan)GPCRsと呼ばれている。

我々は,中枢神経系に広く存在し,ガラニン受容体と約45%の相同性を有する orphan GPCR の GPR54 に対してアゴニスト活性を有する54,14,13アミノ酸残基からなる3種類のペプチドをヒトの胎盤から単離同定した。これらのペプチドはいずれもC端部に RF-amide モチーフを有し,既知の腫瘍転移抑制遺伝子 KiSS-1 がコードする蛋白の一部に一致したため,kisspeptin と名付けられた。GPR54 を発現した CHO 細胞を用いて細胞内情報伝達系を検討した結果,kisspeptin GRP54 を介しイノシトール代謝を促進し,細胞内カルシウムを増加し,アラキドン酸分泌を促進し,extracellular signal-regulated kinase 1/2 および p38 を活性化し, stress fiber の形成を促進したが,その一方で細胞増殖は抑制した。PCR法を用いてGPR54 の組織分布を検討した結果,中枢神経ではクローニングした視床下部のほかに下垂体,脊髄,視床,尾状核,黒質,海馬,扁桃体に分布し,末梢臓器では胎盤,膵臓に発現が認められた。

kisspeptin はシグナルシークエンスを有する分泌型蛋白から由来すること,GRP54を介しアラキドン酸分泌促進や細胞内カルシウム増加作用を有すること,末梢臓器の胎盤に豊富に存在する一方で,その受容体のGPR54 は胎盤のみならず中枢神経系にも広く分布することから,kisspeptin はホルモンとして作用することが示唆された。メスのラットに対して尾静脈より kisspeptin を投与したところ,血漿オキシトシン濃度増加が認められ,この仮説を支持する結果が得られた。