第10回 浜松医科大学 同窓会学術奨励賞受賞論文要旨


第3領域郭清は2領域郭清よりも上または中縦隔リンパ節転移を有する胸部下部食道扁平上皮癌の予後を向上させる。

Improved Survival for Patients With Upper and/or Middle Mediastinal Lymph Node Metastasis of Squamous Cell Caricinoma of the Lower Thoracic Esophagus Treated With 3-Field Dissection. Annals of Surgery 2004, 239(4):483-490.

井垣弘康氏  (医学科第7期生)    国立がんセンター中央病院 外科

[はじめに]本邦では、胸部食道がんの根治的治療として上縦隔および頸部リンパ節を含めた拡大リンパ節郭清術が標準的な外科治療として推奨されている。しかし、胸部下部食道がんに対する頸部郭清の必要性は議論のあるところである。

[対象および方法]1988年1月より1997年12月までに532例に根治目的にて2または3領域郭清を伴う食道切除術が施行された。このうち腫瘍主占居部位が胸部下部食道の156例について検討した。

[結果]156例中55例に2領域郭清、101例に3領域郭清が行われた。全症例の術後合併症率、手術死亡率、在院死亡率はそれぞれ68%、13%、2.6%であった。術後合併症は2領域群の71%に、3領域郭清群の66%に認められた。なかでも反回神経麻痺は2領域郭清群の18%(10例)、3領域郭清群の9%(9例)に認められ、3領域郭清群のほうが少ない傾向があった。全死亡を含めた5年生存率は全体で49.3%、2領域群で45.0%、3領域群で51.7%であった(P=0.41 log−rank test)。反回神経周囲リンパ節転移は20%(31例)に認められた。反回神経周囲リンパ節転移を有する症例の5年生存率は、2領域郭清群で10%、3領域郭清群で23%であった(P=0.06)。また、3領域郭清が行われた半回神経周囲リンパ節転移陽性症例の33%に頸部リンパ節転移が認められた。頸部リンパ節転移陽性症例の5年生生存率は26.8%であった。

[結語]胸部下部食道がんに対し2または3領域郭清が行われた症例を検討した。術後合併症の発生頻度は両群に差が認められなかったが、反回神経麻痺の発生頻度は3領域群で少ない傾向があった。全体での術後生存率は2領域および3領域群で差が無いが、反回神経周囲リンパ節転移陽性例の5年生存率は3領域郭清群でより良好であり、胸部下部食道がんでも3領域郭清を推奨する。