小出幸夫氏

第14回学術奨励賞授賞選考委員会委員長講評




    選考委員会委員長      小出  幸夫



本年も浜松医科大学同窓会奨励賞の選考委員長を仰せつかったので、その講評をする。選考委員は、浦野哲盟教授(生理学第二、同窓会副会長)、梅村和夫教授(薬理学、同窓会会長)、 北川雅敏教授(生化学第一)、渡邉裕司教授(臨床薬理学)、山本清二准教授(光量子医学研究センター・細胞イメージング研究分野、同窓会副会長)に小生を加えた6名であった。

今回(第14回)は6名の応募完了があった。何れも質の高い論文であり、選考に苦慮したが、後で述べる選考経過により、以下の4名が選出された。藤田陽太(医学科15期生、京都大学 大学院生命科学研究科・産学官連携研究員)、新村和也(医学科15期生、本学病理学第一講座・准教授)、鈴木優子(医学科14期生、本学生理学第二講座・助教)、 貝田勇介(医学科20期生、本学第二内科・医員)。

この賞の大まかな選考基準に関する申し合わせ事項については、昨年既に記載した。本邦で行われた研究を優先すること、海外で行われた研究でも本邦での継続性が 期待されるものは評価すること、臨床研究は実験研究とは別枠で考慮する等である。

例年通り、各選考委員は全ての論文に目を通し、更に専門性に鑑み指定された論文を特に 熟読して選考委員会に臨んだ。各委員は指定された応募論文の内容、質について説明し、その後討論を行った。この点で、北川委員は指定された論文数が多く、多大な ご負担をお掛けしたと思うと共に、研究のトレンドも感じさせられた。なお、応募者の中に審査員と関係のある者がいた。当然ながらその応募者に関する審議には関係審査委員は関与し ないこととし、公平を期した。

その結果、まず貝田氏の The CYP2A6*4 allele is determinant of S-1 pharmacokinetics in Japanese patients with non-small-cell lung cancer (チトクロームp450 2A6*4アレルは日本人非小細胞肺癌患者におけるS-1の薬物動態の決定因子である)、Clin Pharmacol Ther 83:589-594,2008. を全員一致で 選出した。その理由は、上記した「臨床研究」であり、論文の質も高いことによる。進行性非小細胞肺癌に用いられる化学療法薬であるS-1は5-FUのプロドラッグである テガフールを主成分としている。その5-FUへの変換にはCYP2A6が中心的役割を果たす。CYP2A6には30以上の遺伝子多型が報告されている。貝田氏はテガフールと5-FUの 薬物動態を活性欠損型であるCYP2A6*4Cアレルの有無で検討し、*4Cアレルを持つ患者ではテガフールから5-FUへの変換が不十分であることを実証した。 この結果は非小細胞肺癌患者に対するS-1の個別化治療の可能性を示すもので、高く評価された。

藤田氏の受賞論文は Priming of centromere for CENP-A recruitment by human hMis18α,hMis18β,and M18BP1. (CENP-Aをセントロメアに局在化するヒトhMis18α,hMis18β,and M18BP1のプライミング機能)Developmental Cell 12:17-30,2007.である。細胞分裂において 染色体均等配分を保証するセントロメア/キネトコアの機能を研究することは、癌化や先天性疾患の原因となる染色体の脱落や過剰伝達の機構解明に繋がり、極めて重要である。 藤田氏らは既に、分裂酵母を用いて染色体均等分配に必要な新規セントロメア蛋白質 Mis14-Mis18を同定している(Cell 2004)。今回の論文ではMis18と相同なタンパク質がヒト で2種類(hMis18α,hMis18β)存在することを証明した。そして、これらと複合体を形成するM18BP1を発見した。更に、この複合体は細胞周期依存的にセントロメアヒストンを アセチル化することでCENP-Aのセントロメア局在化に機能していることを示す結果を得た。極めて基礎的な研究であるが、医学分野における発展が期待できる点が評価された。

新村氏の受賞論文:Induction of centrosome amplification and chromosome instability in p53-deficient lung cancer cells exposed to benzo[a]pyrene diol epoxide (B[a]PDE)(ベンゾピレン代謝産物(B[a]PDE)を処理したp53欠損肺癌細胞における中心体過剰複製と染色体不安定性の誘導)J Pathol 216:365-374,2008.
タバコ煙中に含まれる発癌物質であるベンゾピレン(B[a]PDE)による発癌機序の研究である。p53欠損肺癌細胞株を用いて、(B[a]PDE)が細胞周期停止時に中心体過剰 複製を誘導することを見いだした。又、FISH法により染色体数を計測すると中心体過剰複製を介したと考えられる染色体不安定性が認められた。更に、原発性肺癌検体でもp53 がnon-functionalな場合に(B[a]PDE)の蓄積と中心体過剰複製との間に相関が認められた。この研究は喫煙と肺癌の関係を示す重要な研究と考えられた。

鈴木氏の受賞論文:Unique secretory dynamics of tissue plasminogen activator and its modulation by plasminogen activator inhibitor-1 in vascular endothelial cells. (血管内皮細胞特有の組織型プラスミノゲンアクチベーターの分泌動態とその阻害因子PAI-1による修飾) Blood 113:470-478,2009.
線溶阻害因子であるプラスミノゲンアクチベーターインヒビター1型(PAI-1)量の増加は、独立した冠危険因子である。その標的酵素である組織型プラスミノゲンアクチベーター (tPA)は血管内線溶活性化因子であり、血管内皮細胞にて産生・分泌されるが、その詳細な分泌および活性発現機構は明らかでない。鈴木氏はGFP融合tPA遺伝子を培養血管内皮細胞 に導入し、以下の知見をえた。1) tPA-GFPは分泌された後、細胞表面に滞留し緩除に上清中に放出される。このtPAの細胞表面における滞留にはtPAの重鎖が関与する。2)PAI-1の 添加によりtPAの細胞表面滞留時間は短縮し、上清中にtPA-PAI-1複合体が増加する。3)PAI-1と複合体を形成しない変異tPAおよびPAI-1のsiRNAはtPAの細胞表面滞留時間を著名に延長する。 4)プラスミン発色気質を用いたtPA活性解析の結果、PAI-1は細胞表面における内因性tPA活性を抑制することが判明した。この研究では、tPAが開口放出された後、重鎖を介して細胞 表面に滞留する現象、更にこのtPA細胞表面滞留はPAI-1により修飾されることを見出し、PAI-1は液層中だけでなく細胞表面のtPAをも抑制するという新たな線溶活性調節機構を提唱した 点が評価差された。

冒頭に記したように今回は全て質の高い論文であった。今回、選に漏れた諸君は再度挑戦していただきたい。また、次回も多数の応募を期待する。