第24回 浜松医科大学 同窓会 松門会 学術奨励賞 受賞論文要旨
ラット頭部外傷モデルにおいて外傷早期の凝固イベントが急性肺障害を引き起こす

Early coagulation events induce acute lung injury in a rat model of blunt traumatic brain injury.
American Journal of Physiology, Lung cellular and Molecular Physiology 311: 74-86, 2016

安 井 秀 樹 (医学科第24期生) 本学救急部    助教
要旨
【背景】
交通外傷や転落などに伴う頭部外傷は、死亡や長期後遺症に直結する重要な疾患である。 頭部外傷後には、頭蓋内のみでなく、全身で様々な合併症が引き起こされることが知られている。 合併症の中でも、肺障害は、生命予後に直結する重要なものであるが、発症メカニズムは不明点が多く、 メカニズム解明と治療戦略の確立は急務を要するものである。 我々は頭部外傷による脳組織の損傷と血液脳関門の破綻により、脳内に大量に含まれる外因系凝固カスケードの開始因子である組織因子(TF)が体循環に流入し、 全身性に凝固カスケードを活性化することが肺障害を引き起こすという仮説を立て、動物モデルを用いて検証した。
【方法】
ラットにイソフルラン麻酔下で頭部に鈍的外傷を与え、外傷 5, 15, 60 分後に血液と肺組織、気管支肺胞洗浄液を採取した。 摘出肺の肺障害スコアを評価し、免疫(蛍光)染色を用いて血漿ならびに肺組織中の TF を観察し、対照ラットのものと比較検討を行った。
【結果】
対照ラットと比較して頭部外傷モデルにおいて血漿中の TF は外傷 5 分後に有意に増加しており、血漿中 TF の一部は脳由来であることが判明した。 肺組織においても頭部外傷 5 分後から TF が確認され、同時に毛細血管透過性亢進型の浮腫と組織学上肺障害が確認された。 外傷 60 分後には肺胞全体に TF が確認され、凝固カスケードの最終産物であるフィブリン沈着がみられた。 凝固カスケードの下流に位置するトロンビンの直接阻害薬である Refludan を外傷前投与すると、 Refludan 非投与群と比較して組織学的に肺障害の減弱が確認された。 凝固カスケードの活性化ならびにトロンビンが頭部外傷後の肺障害における直接因子であることが確認された。
【結論】
動物モデルにおいて TF より開始される全身性凝固カスケードの活性化ならびにトロンビンの過剰産生が頭部外傷後肺障害の重要な発症機序であることが証明された。