第14回 浜松医科大学 同窓会学術奨励賞受賞論文要旨


ベンゾピレン代謝産物 B[a]PDE を処理した p53 欠損肺癌細胞における中心体過剰複製と染色体不安定性の誘導

Induction of centrosome amplification and chromosome instability in p53-deficient lung cancer cells exposed to benzo[a]pyrene diol epoxide (B[a]PDE)    Journal of Pathology 216: 365-374,2008.

新村和也氏  (医学科第15期生)    本学病理学第一講座    准教授

タバコ煙中に含まれる環境化学発癌物質として著名なベンゾピレン (B[a]P)による癌化機序として,そのDNA付加体が変異原としてはたらくことが知られているが(論文リスト:28番),未だその全貌が明らかではない。申請者は,ここ数年,「中心体複製サイクル制御機構異常と発癌」に関する研究を継続して行っており(米国留学時及および留学後,論文リスト:39-42,46,50,51番),今回,染色体不安定性および p53 変異が高頻度に見られ, (B[a]P)にさらされる環境下にある,肺癌に着目し,その中心体異常の関与の可能性を検討した。

p53 欠損肺癌細胞株 H1299 に,B[a]P 代謝産物 B[a]PDE を処理することにより,中心体数,染色体数への影響を検討した。H1299 に B[a]PDE を処理すると,S期停止が起こり,また,間期/分裂期における中心体数の増加および分裂期の多極性紡錘体形成が見られ,中心小体マーカー蛍光標識細胞を用いた中心小体レベルでの解析結果と合わせて,細胞周期停止時に中心体過剰複製が誘導されたと考えられた。

また,B[a]PDE-dG 部位を正確に乗換える活性を有する DNA ポリメラーゼ POLK を過剰発現させると,B[a]PDE 誘発中心体過剰複製が抑制され B[a]PDE-DNA 付加体形成と中心体過剰複製との関係がさらに示唆された。また,B[a]PDE 処理後数日後に FISH 法により染色体数を計測すると,中心体過剰複製誘導を介したと考えられる染色体不安定性誘導が認められた。

最後に,原発性肺癌検体182症例での解析で,p53 が non-functional な場合に,B[a]PDE-DNA 蓄積と中心体過剰複製との間に関連性が認められ,H1299 細胞株での実験結果と整合性がみられた。以上のことから, B[a]PDE は,遺伝子変異誘導のみならず,中心体過剰複製誘導を介した染色体不安定性誘導により,肺癌に関わっていることが示唆された。

本成果は,肺癌でよく見られる p53 変異と染色体不安定性の所見に合致するのもであり,また,喫煙と肺癌との間の新規かつ重要なつながりを提示するのである。病理分野で1,2位のレベルの journal に掲載され,日本病理学会学術奨励賞の受賞の評価対象となった論文でもある。