第14回 浜松医科大学 同窓会学術奨励賞受賞論文要旨


チトクローム P450 2A6*4 アレルは,日本人非小細胞肺癌患者における S-1 の薬物動態の決定因子である。

The CYP2A6*4 allele is determinant of S-1 pharmacokinetics in Japanese patients with non-small-cell lung cancerClin Pharmacol Ther 83:589-594,2008.

貝田勇介氏  (医学科第20期生)    本学内科学第二講座    医員

進行期小細胞肺癌患者に対する標準的な化学療法の成績は奏功率 17〜22%,1年生存率 31〜36% と満足できるものではない。S-1 は,5-Flurouracil ( 5-FU) のプロドラッグであるテガフールを主成分とした薬剤で,第U相臨床試験において奏功率 47%,1年生存率 45%と優れた成績が得られている。テガフールから 5-FU への変換は,チトクローム P450 2A6( CYP2A6 ) が中心的役割を果たす。

CYP2A6 には30以上の遺伝子多型が報告され,その頻度は人間間で大きく異なり,多型の存在によって CYP2A6 の薬物代謝酵素活性能が欠損または低下する。アジア人,特に日本人では CYP2A6*4C (活性欠損), CYP2A6*7 (活性低下), CYP2A6*9 (活性低下)の頻度が高い。このような遺伝子多型をもつ個体ではテガフールから 5-FU への変換が不十分となる可能性がある。以上のような観点から非細胞肺癌患者の CYP2A6 遺伝子多型とS-1 の薬物動態の関連を検討した。

本学および関連施設で S-1 の投与を受けた進行期非細胞肺癌患者46名を対象とした。 CYP2A6 多型は,野生型 CYP2A61 および 4C, 7, 9を検討した。 1と 4Cの解析には PCR-RFLP 法を, 7と 9の解析には AS-PCR 法を用いた。S-1 の薬物動態は,内服直前と内服後 2,4,6,8,10 時間に採血を行い,テガフールの血中濃度はHPLC 法,5-FU の血中濃度は GC-MS 法を用いて測定した。

テガフールと 5-FU の薬物動態を CYP2A6*4C アレルの有無で検討した。 *4C 陽性群では *4C 陰性群と比較して,5-FU の Cmax が低値で,テガフールの Cmax と AUC0-10 は高値だった。S-1 投与の際に CYP2A6*4C アレルを持つ症例では 5-FU の血中濃度が上昇し難いことが強く示唆された。

*4C アレルを持つ患者では,テガフールから 5-FU への変換が不十分で有効な 5-FU の血中濃度の達成が出来ず, 結果として S-1 の抗腫瘍効果が低下する可能性がある。CYP2A6 遺伝子多型,特に CYP2A6*4C アレルの有無を解析することは,非小細胞肺癌患者に対する S-1 の個別化治療に有用な可能性が示唆された。